原 爆 の 詩


  原爆の詩 緒方 俊平

 

1
朝だというのに
みんなの額に汗がにじんでくる暑い暑い日でした。
クスの木の大きな枝に
沢山のハトやカラスがとまって広場を見下ろしていました。
地上の広場では沢山の人々が集まって、
原爆で死んでいった人々に語りかける
平和を祈る集いが行われていました。
五四回目になる集いでした。
偉い人たちが、平和を誓ってスピーチをしたり、
子ども達が平和の鐘をついたりして
亡くなった人々の永遠の弔いをしています。

2
この広場は、平和公園と呼ばれています。
原爆で死んでいった子ども達や学校の先生達や
様々な人々のためのお弔いの石碑が建てられた
悲しい公園です。
八月六日は、この広島に原爆が投下された日なので、
日本からも世界中からも沢山の人々が集まって、
戦争をしてしまったことを反省します。
そして、原子爆弾が落ちたことによって
死んでいった全ての人間に
「もう二度と戦争はしませんので、
どうか安らかに眠って下さい。」
と平和の約束を繰り返すのです。
この公園の真上で、五四年前の八月六日八時一五分に
世界で最初の原子爆弾が破裂したのです。
そのことを忘れてしまった人々も沢山いますが、
ここに集まった人たちは決してそれを忘れていません。

3
クスの木の枝に止まつているカラスとハトが小さな声で語り合っていました。「今年もまた忘れられたなあ。」とカラスがつぶやきました。
「五四年も過ぎたのに人間はまだ気がつかないのねえ。」
とハトもつぶやきました。
「いつになったら、私達の仲間が沢山死んでいったこと
を想い出してくれるのかしら。」と下の枝のハトが言いました。 「そうだ、人間は勝手に戦争をして、勝手に反省会をして、きっとまた勝手にもつと大きい戦争をするんじやないの。」と一番上でじっと広場を見ていたカラスがつぶやいていました。
川辺には夾竹桃という樹が沢山生きています。
広島の夏に毎年白や赤の花を咲かせて風に揺らいでいます。
彼女達は昔々原爆に焼かれた植物の中で、一番はじめに蘇って花を咲かせました。
原爆の後七○年間は草も木も生えてこないと言われたのに、夾竹桃はすぐに生き返って焼け野原のような街の中に白い花赤い花をつけて、ずいぶん沢山の傷ついた人々を励ましたのです。
夾竹桃が語っていました。
「私達は、あのワンちやん達を忘れていないよ。」 と。
「それはどういうことなの?」と子どものハトが枝の上からたずねました。
「五四年前の八月六日の朝、原子爆弾がピカッと光って、
ド-ンと大きな音がして、
沢山の生き物が「あっ」と叫ぶ間もなく死んだけど、
私達も焼かれて、皮もただれて、
そのまま死んでゆくとこだったのよ。
のどが渇いて水が欲しかったの。その時、沢山の焼けただれたワンちやん達がこの元安川の川辺に
水を飲みに集まってきたの。
「のどが渇いた。水をくれ。」
「のどが渇いた。水をくれ。」と叫んで、
人間達だけでなく犬も猫もハト もスズメも焼けただれて
さまよいながらみんなヨタヨタと川辺に集 まったの。
私達は根っこがあるから、少しだけでも水をもらえば
何とか生き延びれると思ったけど、
歩けないからそのまま立ちつくして焼けてゆき
死んでしまうしかなかったの。
その時、一匹の大きな犬がこう言ったの。
「僕達はもう死ぬだろう。だけど、最後の力を出して、夾竹桃さんの根元に水を運んであげよう。」
そうして川にはいつて行き、沢山の水を毛にしみ込ませて、
私達の根っこのところでブルブルと身体を震わせて水をかけてくれたのよ。ヨタヨタしながら、沢山の犬達が何度も何度も川辺から一本一 本の木々の根元に水をかけてくれたわ。
焼けただれた犬達のおかげで私達は蘇ったの。
一度しか水をかけられず死んでしまった小犬もいたわ。
倒れても、倒れても立ち上がって根元に水を運んでくれた犬もいたわ。私達の根元まで来て息絶えた犬達が多かったわ。
最後にみんなこう言っていたわ。
「自分達の分まで生きて、生きて、生き抜いてくれ。自分達は死んでゆくけど、夾竹桃に抱かれてこの生命を繋げられたような気がする。さあ、ボクを抱きしめてくれ。そしていつの日か動物や植物が泣かなくてもすむような世の中になるといいね。」そうつぶやきながら、あっちでも、こっちでも犬達が川辺で毛に水をしみ込ませ、何度も何度も根元に水を与えてくれたのでした。
累々とした犬達の屍が根元のあちこちに横たわった頃、
黒い黒い放射能の雨が降りはじめたのよ。
そこまで一気にしやべると、夾竹桃達はワナワナと震えて泣きはじめました。
それを聞いていたハトもカラスもみんな泣きました。
しかし、その泣き声は、平和の集まりをしている人間達には聞こえませんでした。
五四年間でその声を間いてくれた人はまだわずかでした。
だから、動物も植物も魚達もみんな、またいつ自分達が犠牲になるのか分からないとおびえています。

広島の夏に咲く夾竹桃と沢山のワンちやん達の話や
ハトやカラスの泣く声を平和公園に来てみたら
あなたも聞くことが出来るかもしれませんね。

ありがとう。